発達障害とは。定義と種類、それぞれの症状や特徴について。

発達障害の定義

発達障害は、「発達障害者支援法」では次のように定義されています。

自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの

文部科学省 発達障害者支援法(平成十六年十二月十日法律第百六十七号)より引用

またアメリカ精神医学会が作成したDSM‐5(精神疾患の診断と統計のためのマニュアル第5版)では、神経発達障害(症)というカテゴリーに以下のように定義されています。

りんこ
法律上の定義(発達障害者支援法)より、医学上の定義(DMS-5)のほうが発達障害の定義が広くなっています。

DSM-5 神経発達障害(症)のカテゴリー内容

・知的能力障害
・コミュニケーション障害群
・自閉スペクトラム症・注意欠如
・多動症・学習障害(限局性学習症)
・運動障害
・他の精神発達障害

DSM-5では発達障害は、知的障害(知的能力障害)、コミュニケーション障害、自閉スペクトラム症(ASD)、ADHD(注意欠如・多動症)、学習障害(限局性学習症、LD)、発達性協調運動障害、チック症の7つに分けられています。

厚生労働省 e-ヘルスネットより引用

りんこ
「発達障害」とは、「身体障害」や「精神障害」などと並ぶ1つのカテゴリーで、単一の障害をあらわす言葉ではありません。

発達障害の特徴

発達障害は生まれつき、もしくは出生のごく早期に由来する脳や神経の特性です。

将来にわたって安定した経過をたどり、特性自体が大きく変化することはありません。

発達障害に共通する特徴 ICD-10(WHO,1992)より

①発症は常に乳幼児期あるいは小児期

➁中枢神経系の生物学的成熟に関係した機能発達の障害または遅れ

③寛解や再発が見られない安定した経過

発達障害の種類と主な症状

発達障害には「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠陥多動症(ADHD)」「限局性学習症(LD)」の3つの種類があります。

それぞれの障害は併存し、重なりあう場合がありますが、発達障害は、他の障害に比べて併存している確率が高くなります。

また発達障害には、知的発達の遅れを伴う場合とそうでない場合とがあります。

知的能力とは、思考や判断、記憶など人の知的な活動の基盤となる能力のこと。一般的に、知能検査の結果から導き出された知能指数(IQ)で測られます。

※ウェクスラー式知能検査では、知能指数は同年齢集団との比較によって測られ、平均が100(標準偏差15)とされます。

知的能力の障害(知的障害)の判断は、平均より2標準偏差下にあたる70を基準とされるのが一般的です。

自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症(ASD)

自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症(ASD)の定義

自閉症とは、3歳位までに現れ、①他人との社会的関係の形成の困難さ、➁言葉の発達の遅れ、③興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

文部科学省「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」より

自閉症スペクトラム障害/自閉スペクトラム症(ASD)の主な症状

・人との関わりやコミュニケーションの困難

→他者と良好な関係性を構築するのがむずかしい、コミュニケーションが苦手 など

・想像力、見通しの困難

→他者の感情の動きなど内面を推測するのがむずかしい、時間の見通しをたてるのがむずかしい など

・こだわりや反復的な行動

→特定のものへのこだわりが強い、特定の行動パターンに執着する など

・感覚の過敏さ

→音や光など、特定の感覚刺激に対する過敏さや鈍感さ

りんこ
ASDは言葉の遅れや知的障害を伴うことが多いですが、知的障害がない場合もあり、知的能力の幅が非常に広いのも特徴です。

注意欠陥・多動性障害/注意欠陥多動症(ADHD)

注意欠陥・多動性障害/注意欠陥多動症(ADHD)の定義

ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。

文部科学省「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」より

注意欠陥・多動性障害/注意欠陥多動症(ADHD)の主な症状

・不注意

→集中力が続かない、気が散りやすい、忘れっぽい など

・多動性

→落ち着きがない、じっとしていられない、しゃべりっぱなし など

・衝動性

→行動の制止や抑制がむずかしい、我慢が苦手、怒りっぽい など

りんこ
ADHDの場合、ASDほど知的能力に幅はありません。

学習障害/限局性学習症(LD)

学習障害/限局性学習症(LD)の定義

学習障害とは、基本的に全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

文部科学省 「学習障害児に対する指導について(報告)」より

学習障害/限局性学習症(LD)の主な症状

・読みの困難

→文字や文章を読むことが苦手

・書きの困難

→文字や文章を書くことが苦手

・算数、計算の困難

→計算や数概念の理解が苦手

りんこ
LDの場合、知的能力障害を伴わないもの、と定義づけられています。

発達障害の原因

発達障害の原因について押さえておくべきポイント

発達障害の明確な原因は解明されていない

発達障害が発生する原因やメカニズムについて、多くのところはまだ解明されていません。

遺伝が大きな要因となっていることは知られていますが、遺伝だけでは発生要因を説明できないため、胎児期や周産期の状態などの環境要因も原因の1つとして考えられています。

複数の要因が複雑に影響し合う多因子要因であるという考え方が現在の主流となっています。

先天的な脳と神経系の障害

発達障害は生まれつきの先天的な(もしくは胎内時やごく早期の周産期における)脳と神経系の障害であることがわかっています。

脳のどの部分にどのような障害があるのかについてはまだ明確になってはいませんが、ある程度わかっている部分もあります。

※ASDの場合:社会脳と言われる対人関係にかかわる部位
※ADHDの場合;行動の統制にかかわる脳の部位

など

育児の方法や本人の努力不足のせいではない

発達障害の原因は解明されていませんが、脳の特性によるものであり、育て方や本人の努力不足の問題ではありません。

ただし、虐待などの過酷な生育環境を経験した子どもたちの中には、先天性の発達障害と見分けがつかないような「発達障害様<よう>」の状態になることがあり、先天性のものとは区別されますが、判別が難しい場合があります。

発達障害の遺伝による影響

遺伝研究により、発達障害の発生には遺伝的な要因が大きいことが分かっています。

一卵性双生児の両者が発症する確率

・ASDの場合・・・70~90%
・ADHDの場合・・・約80%

しかしながら高確率とはいえ100%ではないことから、遺伝子以外の要因が存在していると考えられます。
また発達障害は、複数の遺伝子が影響する「多因子遺伝形式」であることが分かっています。
つまり発達障害は、特定単一の遺伝子によって起こる、いわゆる遺伝病ではありません。
自閉症スペクトラム障害では、1000以上の遺伝子が関与しているのではないかと考えられており、関与している遺伝子を特定するための研究が盛んに行われています。

エピジェネティクス

遺伝子(DNA)の配列変化なしに遺伝子発現を制御・伝達するシステムのこと。
遺伝子のスイッチのオン・オフによって、遺伝情報が発現したりしなかったりすることを指します。

エピジェネティクスは、遺伝子そのものの性質だけでなく環境要因の影響を強く受けることがわかっています。

りんこ
ASDを含む発達障害の原因も、このエピジェネティクスが大きく関与していることが考えられます。

発達障害の環境による影響

ASDを中心とした疫学研究により、発達障害の発症は、遺伝要因に加え、環境要因も大きいことが分かってきています。

疫学研究・・・病気の罹患など、健康に関する事柄の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする科学研究。
りんこ
発達障害の発症確率を高めると考えられる環境要因は以下の通り

出生時の親の年齢

出生時の両親の年齢、特に父親の年齢が高齢であることがASDの発症確率を2倍以上に高めることが分かっています。(デンマーク、イスラエル、アメリカなどで行われた大規模調査の結果)

また浜松医科大学らの研究では、出生時に父親が33歳以上である場合、29歳以下である場合に比べて、ASD発症に約3倍の違いがあることが発表されています。

大気汚染

大気汚染が発達障害の発症促進要因であるという複数の研究結果が報告されています。

・ロサンゼルスで行われた調査

PM2.5などの大気汚染が進んでいる地域の発症確率が2倍であったと発表されている。

・カリフォルニアで行われた調査

妊娠中に有機塩素系の農薬が散布された農場から500メートル以内に住んでいた母親から生まれた子どもは、6.1倍もASDを発症しやすいことが示された。

妊娠中の喫煙、長期の発熱

母親の喫煙行動が発達障害の発症確率を高めるという複数の研究結果が報告されています。

・スウェーデン、カロンリンスカ研究所の研究

妊娠初期の喫煙が自閉症発症確率を1.4倍高めることが発されている。

・小児科医の安原医師らの調査

ADHDの診断を受けた子どもを持つ母親は、そうでない母親に比べて2倍ほど喫煙率が高いという調査が報告されている。

・米国小児学会の研究報告

妊娠中の母親にインフルエンザ感染や1週間以上にわたる発熱があると、生まれてくる子の自閉症の確率が2~3倍に高まるというオランダの研究グループの研究報告を紹介

発達障害の発生率

発達障害の子どもたちの発生率調査は、諸外国を含めて様々に行われていますが、その結果は3~10%と、調査地域や専門家によってばらつきがあります。

日本では、2022年に文部科学省による調査が行われています。

※文部科学省文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」参照

この調査は、全国の公立の小学校・中学校・高等学校の通常の学級に在籍している児童生徒のうち、質問項目に対して学級担任等が回答した内容から、「知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒数の割合を推定している調査

りんこ
実際に、発達障害や知的発達に遅れがあると診断を受けた子どもの数ではないことには注意が必要

この調査によると、「知的発達に遅れはないものの学習面または行動面で著しい困難を示す」とされた小・中学生の割合は、前回調査時(2012年)の6.5%より2.3ポイント増の8.8%。

一方、学年が上がるにつれ減少傾向にあり、高校生は2.2%となっています。

質問項目に対して学級担任等が回答した内容から、「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた児童生徒数の割合 <小学校・中学校>
<小学校・中学校>
推定値(95%信頼区間)
学習面又は行動面で著しい困難を示す 8.8% ( 8.4% ~ 9.3% )
学習面で著しい困難を示す 6.5% ( 6.1% ~ 6.9% )
行動面で著しい困難を示す 4.7% ( 4.4% ~ 5.0% )
学習面と行動面ともに著しい困難を示す 2.3% ( 2.1% ~ 2.6% )
<高等学校>
推定値(95%信頼区間)
学習面又は行動面で著しい困難を示す 2.2% ( 1.7% ~ 2.8% )
学習面で著しい困難を示す 1.3% ( 0.9% ~ 1.7% )
行動面で著しい困難を示す 1.4% ( 1.0% ~ 1.9% )
学習面と行動面ともに著しい困難を示す 0.5% ( 0.3% ~ 0.7% )

前回調査から増加している理由については、教師や保護者の特別支援教育に関する理解が進み、今まで見過ごされてきた困難のある子どもたちにより目がようになったことの他に

・普段から1日1時間以上テレビゲームをする児童生徒数の割合が増加傾向にあること

・新聞を読んでいる児童生徒数の割合が減少傾向にあることなど言葉や文字に触れる機会が減少していること

インターネットやスマートフォンが身近になったことなど対面での会話が減少傾向にあること

・体験活動の減少など

の影響も可能性として考えられると述べられています。

発達障害の男女比について

発達障害の男女比については、DSM-5に以下のように記載されています。

自閉症スペクトラム障害の男女比

自閉症スペクトラム障害は女性よりも男性に4倍多く診断されています。(男:女=4:1)

女性は知的障害を伴うことが多い傾向にあります。
しかしながら、知的障害または言語の遅れを伴わない女児が認定されずにいる可能性があります。(社会的コミュニケーションの困難の現れがより軽微なため)

注意欠陥・多動性障害の男女比

注意欠陥・多動性障害は女性より男性に多くみられます。(小児期で男:女=2:1、成人期で男:女=1.6:1)

その中で、女性は特に不注意の特徴を表す傾向があります。

学習障害の男女比

学習障害は女性より男性に多くみられます。(男:女=2:1~3:1の範囲)

大人の発達障害について

発達障害は脳の機能障害であり、子どもから大人まで安定した経過を示します。
そのため、基本的には発達障害の発生率は大人と子どもで差がありません。

DSM-5によると、大人も子どももASDは人口の1%程度の発症率と記述されています。(LDについては、大人のLDに関する統計に乏しいため有病率は知られていないとの記述あり)。

ただし、例外としてADHDは子どもと大人で発生率が異なり、子ども5%から大人2.5%へと低下します。

おとなのADHDの特徴として、不注意・多動・衝動性のうち多動の症状が年齢の増加とともに目立たなくなることが知られています。

不注意や衝動性による問題は比較的残ることが多い傾向にあります。