私の教室では、幼児さんから小学生まで「聞く力」のトレーニングを行っています。
その際に使用しているのが『きくきくドリル』。
テキストに付属しているCDを聞いて、耳からの情報をもとに課題を行う教材です。
※写真は旧版。現在は表紙の違う改訂版が出ています。
年少〜年長さんまでの幼児クラスでは、集中して耳(=意識)を傾け、必要な情報を得るための「聞く態勢」を作れるようになること、そして最後までその態勢を保ち続ける集中力をつけることが主な目的。
短い文を聞いてすぐに復唱したり、長いお話を聞いて質問に答えるなど、耳で聴いて記憶する、いわゆる「聴覚記憶」の課題をメインに行っています。(関連記事:すべての学習の基礎となる「聞く力」のトレーニング~『きくきくドリル』)
教室では年少さん~小学生クラスのレッスンで、「聞く力」のトレーニングを行っています。 その際に使用しているのが、こちらの…
一方、小学1〜3年生のクラスでは「聴覚記憶」に加えて、耳で聞きながら手を動かす「処理能力」のトレーニングとしても活用しています。
今回は、小学生クラスでの『きくきくドリル』の活用方法についてご紹介します。
「きくきくドリル」旧版と改訂版
現在、販売されている「きくきくドリル」改訂版にはSTEP1~3まであり、対象年齢はSTEP1がおもに4歳から、STEP2がおもに5歳から、STEP3がおもに6歳からとなっています。
*改訂版 きくきくドリル STEP1
*改訂版 きくきくドリル STEP2
*改訂版 きくきくドリル STEP3
教室で使用しているのは、改訂版の前の旧版。
なお改訂版と旧版は、カバー・まえがき・著者プロフィールが変わっているのみで、掲載されている問題は全く同じです。
・旧版 入門編(→改定版のSTEP1)
はじめてのきくきくドリル 入門編―グングン伸びる・脳力を育てる (シグマベスト)
・旧版BOOK1(→改定版のSTEP2)
きくきくドリル―グングン伸びる・脳力を育てる (BOOK1) (シグマベスト)
・旧版BOOK2(→改定版のSTEP3)
きくきくドリル―グングン伸びる・脳力を育てる (BOOK2) (シグマベスト)
・旧版BOOK3(→改定版なし)
きくきくドリル―グングン伸びる・脳力を育てる (BOOK3) (シグマベスト)
教室では、各学年ごとに以下のように取り入れています。
・年少~年中クラス:旧版入門編(=改定版のSTEP1)
・年長クラス:旧版BOOK1(=改定版のSTEP2)
・1年生クラス:旧版BOOK1(=改定版のSTEP2)、旧版BOOK2(=改定版のSTEP3)
・2年生クラス:旧版BOOK2(=改定版のSTEP3)、・旧版BOOK3(改定版なし)
・3年生クラス:旧版BOOK3(新改訂版なし)
2年生、3年生クラスで使用している旧版BOOK3は改訂版が販売されていません。(残念・・・)
が、“おもに6歳から”となっている改定版のSTEP3も、小学校低学年のお子さんの聞く力や処理能力のトレーニングに有効に使える内容ですので、以下をぜひご参考にしていただければと思います。
小学生クラスで取り入れている「きくきくドリル」STEP3の内容をご紹介
【聴覚記憶】系の問題
幼児さんクラスで行っているのと同様、耳からの情報に集中して内容を記憶するトレーニングです。
お話をくりかえそう
CDから聞こえる短いお話を、すぐに繰り返して言います。
出題される短文は、
お正月には 門松や しめ縄を 玄関に飾ります。
など、季節の行事に関することや
昆虫には 骨はなく 硬い皮が 体を おおっています。
などの、自然や生物に関すること、
電話を かけた時は 相手の 都合を 聞いてから 話しましょう。
など、生活や人とのかかわりに関すること
・・・といった、知識や常識として身につけておきたいことが出題されています。
お話をおぼえよう
CDから聞こえてくるお話を聞いた後、内容についての質問に答えます。
長いお話を最後まで集中して聞く力をつけること、またお話の内容をイメージしながら聞くことで記憶に残すトレーニングです。
お話のどこがちがう
2つのお話を聞きくらべて、違うところを指摘する問題。
細部の違いを聞き分けるためには、かなり集中してお話を聞く必要があります。
また、例えば
A.お母さんにマフラーを編んでもらいました。色は私の大好きな緑色です。
B.お母さんに手袋を編んでもらいました。色は私の大好きな緑色です。
という2つの文の場合、「マフラー」と「手袋」はそれぞれ全く違うものなので、聞いたお話を頭の中でイメージすることで違いを見つけることができますが、
A.ホタルのオスは夜になると飛び回ります。これはお尻を光らせて、メスに自分のいる場所を教えているのです。
B.ホタルのオスは暗くなると飛び回ります。これはお尻を光らせて、メスに自分のいる場所を教えているのです。
「夜になると」と「暗くなると」のような、同じような意味のことを違う表現で言っている場合には聞き分けるのが難しくなります。
日頃から、同じようなことを表すさまざまな表現を知り、生活の中で実際に使うことで微妙なニュアンスの違いを感じることが必要です。
やさしい算数
算数の文章題を聞いて、式と答えを書く問題。
「問題を聞いて覚える」「式を立てる」「計算をする」が求められるので、かなりの集中が必要になります。
「計算は得意だけど文章題がニガテ」という場合、多くは問題文が理解できていない、すなわち問題文の内容が具体的にイメージできていないことが多いです。
この問題のねらいは、聞いた文章題の内容を頭の中で整理することなので、「やさしい算数」というタイトルどおり、難しい算数の問題を解くことが目的ではなく、算数の問題としての難易度は高くありません。
お話のどこがへん
お話を聞いて、そのお話の中のへんな部分を指摘して、正しい文になるように直す問題です。
問題には、
お正月を代表する遊びとして、羽根つきやカルタ取り、こま回しや虫取りなどがあります。
などのように、知識や常識を問う問題、
おじさんは昨日からアメリカに行くので、タオルや着替えなどの荷物をスーツケースに詰めて準備をしています。
など、つじつまの合わないところを指摘する問題
・・・などが出題されます。
へんなところを、「〇〇がヘン!」と言うだけでなく、「〇〇は〇〇なのに、〇〇と言っているのがおかしい」などと、どこがどうおかしいのか理由をしっかり説明すること、また、正しい文章にしたらどうなるか言い直すことで、筋道立てて説明する力や表現力のトレーニングにもなります。
【処理能力】系の問題
「耳」と「手」を同時に動かすことで処理能力を高めるトレーニングです。
大事なことは3つ
「右から2番目を赤色にぬります」など、「右・左のどちらか」「〇番目(〇個)」「色」の3つの指示を聞いて、正しく処理する問題。
指示を聞いている時には鉛筆を持ったり、塗るところを手で押さえたりしてはいけません。
最初は「右から2番目を赤」など、“順序数”(〇番目)の指示ばかりですが、徐々に「右から3個を赤」など、”集合数”(〇個)の指示が混ざり、難易度が高くなっていきます。
道順をよく聞こう
CDの「上」「下」「右」「左」の声に合わせて道を進んでいき、正しいゴールまで行く問題。
進む方向に関する指示を聞いて瞬時に反応し、手を動かすトレーニングです。
左右を間違えて逆に行ってしまった場合など、もとの道に戻りながらも耳は次の指示を聞いて追いつくなど、間違えてもあわてずに落ち着いて処理できるかどうかも問われます。
メモをとろう
お話を聞きながら自分にとって大事だと思うところをメモし、お話の後メモを見ながら質問に答える問題。
『クラス遠足のお知らせ』などの想定で、「あなたのクラスは2組とします。」などと指示があり、2組のあなたにとって大事だと思うことをメモするという、自分にとって必要な情報を見極めるトレーニングです。
お話を聞きながら、大事なところ・必要ないところを瞬時に判断して、必要のないところは省き、要点を押さえて簡潔に書きとめることができるようになるのが目的です。
君がFAXになろう
座標軸上の位置をあらわす指示に従ってマス目に色を塗っていく問題。(例:「【こ】の10から14」「【ち】の7・8」など)
正しく塗ると、座標軸上に文字が現れます。
(※このちょっとガタガタした文字が昔のFAXみたい、というのを子どもに説明してもなかなかわかってもらえないのですが・・・・)
塗る場所を聞き漏らしたりした時に、いつまでも探しているとどんどん指示が流れていって、まったくわからなくなってしまいます。
わからないところがあっても飛ばして次の指示に備える等、適切に対処できるかどうかもポイントになります。
暗号を読み取ろう
「かをわまひ」など、CDから聞こえてくる文字列をそのままマスに左から右へ(横書きで)書いていきます。
すべてを書き終えた後、縦に読んでいくとまとまった文章ができあがっています。
書いている間はどんな文章になるかがまったくわからないので”暗号”、というわけです。
ものの名前など、意味のある言葉なら一度聞いて書き写すことは簡単ですが、無意味な文字列を聞いて書き取るには、一語一語すべてを漏らさず聞き取らなければならないため、かなりの集中力が必要になります。
意味のない文字列をおぼえることで集中力を高めるトレーニングです。
番外編:【論理的思考力】系の問題
改訂版が販売されておらず、現在、Amazonで中古が流通しているのみの旧版BOOK3ですが・・・
きくきくドリル―グングン伸びる・脳力を育てる (BOOK3) (シグマベスト)
こちらには、上で紹介した「聴覚記憶系」「処理能力系」問題の他に、耳で聞いた情報を頭の中で整理し、筋道立てて答えを導き出す「論理的思考力系」とも言うべき問題が出題されています。
条件に合うのはどれ
CD聞こえてくる説明について、条件に合うものを答えます。
例えば・・・
もしイチゴがメロンより大きく、リンゴがイチゴより大きいとしたら、いちばん小さいものは何ですか
など、実際のものとは違う条件になりますので、自分が知っている事実にとらわれずに、与えられた条件だけで論理を組み立てる必要があります。
しかも、文字や図ではなく耳からの情報だけで一瞬のあいだに条件を整理して、論理的に考えなければなりません。
頭の中で図式化したりイメージを描くなど、自分なりの条件整理の方法が必要になります。
言うなれば、「シーソーの重さ比べ」の三者比較の問題で、シーソーがかかれておらず、さらに問題を目で読むのではなく耳で聞いて解くような感じです。
問題文に出てくる比較の条件は「大きい・小さい」「重い・軽い」「広い・狭い」「長い・短い」など、イメージとして思い浮かべやすいものだけでなく、
「熱い・冷たい」
もし雪が氷より熱く、氷が温泉より熱いとしたら、いちばん熱いものは何ですか
「甘い・甘くない」
もしチョコレートが砂糖より甘く、キャラメルが砂糖より甘くないとしたら、いちばん甘いものは何ですか
他にも「速い・遅い」「強い・弱い」「高い・安い」など、ビジュアルにして思い描きにくいものがあったり、
もしミカンがスイカの5倍くらいの大きさで、ミカンがトマトの半分くらいの大きさだとしたら、いちばん小さい動物は何ですか
といった、「〇倍」などの表現が含まれるものもあります。
「正しく聞く力」「頭の中で条件を整理する力」「筋道立てて答えを導き出す力」が求められる良い問題だなぁと思っていたので、ここでご紹介させていただきました。
この問題が出題されているBOOK3の改定版が販売されていないのは個人的にはとっても残念。
旧版が残っていたら、“買い”かもしれません。
最後に
「きくきくドリル」は、書店ではよく小学校受験のコーナーに置かれているのですが、小学校低学年のお子さんの「聞く力」を高めるのにもとてもオススメな教材です!
”話を聞きながら作業をする”など、2つのことを同時に行うのは子どもにとって難しいことだったりしますが、これができるようになることで処理能力も格段に上がっていきます。