『通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法』は、学習障害の中の算数障害について、その指導ノウハウを通常学級の指導に取り入れる方法などを紹介している本。
学習障害児がつまずきやすい算数概念や学習は健常児もつまずきやすく、学習障害児にわかりやすい指導は健常児にとってもわかりやすい。
すなわち本書は、算数につまずきのあるすべての小学生にとって参考になると言えます。
通常学級で役立つ 算数障害の理解と指導法 みんなをつまずかせない! すぐに使える! アイディア48
算数障害の4つの領域
学習障害の「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」という領域の中で、算数障害は「計算する」「推論する」に困難がある場合を言い、①数処理➁数概念③計算④数的推論(文章題)の4つの領域に整理できます。
算数障害の4つの領域
①数処理・・・数詞・数字・具体物の対応関係
➁数概念・・・序数性と基数性
③計算・・・数と数との操作(暗算、筆算)
④文章題・・・さまざまな数の変化や操作を推論する
※①数処理と➁数概念についてはこちらの記事をご参照ください。>>>数え間違い、数字の読み書き・・・算数でつまずく原因を『通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法』から学ぶ
『通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法』は、学習障害の中の算数障害について、その指導ノウハウを通常学級の指導に取り入れる方法などを紹介している本。 学習障害児がつまずきやすい算数概念や学習は健常児もつまずきやすく、学習障害児にわかり[…]
算数のつまずきタイプとその原因
算数障害の4つの領域を踏まえて、算数につまずきがある子どものタイプは以下に分類できます。
・数処理(数の変換が苦手)
・計算(小さい数の計算が苦手)(大きな数の計算が苦手)
・数概念(序数性が理解できない)(基数性が理解できない)
・文章題(統合過程が苦手)(プランニングが苦手)
「暗算ができない」・・・小さい数の計算が苦手な子
「計算」については、暗算と筆算に分けて考えられます。
暗算・・・足し算・引き算で答えが20までの計算、かけ算・わり算で九九までの範囲の計算
筆算・・・それ以上の数の計算
暗算ができるようになるためには、5や10の合成・分解ができることが必要。
また計算の前段階として、具体物(実際のもの)→半具体物(シンボル)→数への変換を行う必要があります。
10までの数は具体的な物に結びつけやすいですが、これでは数という抽象的なものを操作することができるようにならないため、計算の指導の前に、数を頭の中でイメージで操作できるよう半具体物でイメージを作っておく必要があります。
小さい数の計算が苦手な子の例
☑・いつまでも指を使って計算している
☑・計算に時間がかかっている
☑・1+1や5+1ができない
☑・2+3はできているのに3+2は指を使っている
2+3=5や5-3=2など小さい数の計算は、日常生活や算数の学習で何度も繰り返すうちに、計算式と答えのパターンを数の組み合わせとして長期記憶化し、やがて”数的事実”(基本的な数の関係)として定着し、式を見れば考えなくても答えがぱっと思い浮かぶようになります(=”自動化”)。
自動化の段階に移行する年齢は個人差が大きくなりますが、小さい数の計算が苦手な子は、自動化に至らず具体物に依存して数え足す・数え引くという段階にあります。
小さな数の計算(暗算)ができない原因
・手と目の協応の問題
手と目の協応(目で見た情報に合わせて体を動かす)に問題があると、数詞を言いながらブロックなどの具体物を操作して計算のしくみを理解することができなくなってしまいます。
・ワーキングメモリの問題
ワーキングメモリ(作業記憶)とは「作業のための記憶。何らかの知的な作業をするために、外部からの情報や記憶を一時的に記憶すること」。
ワーキングメモリが弱いと、ブロックなどの具体物を用いて計算のしくみを理解しても、それを頭の中でイメージ操作することができなくなってしまいます。
・長期記憶の問題
通常は日常生活や算数学習で何度も繰り返しているうちに、計算式と答えのパターンを”数的事実”(基本的な数の関係)として、式を見れば考えなくても答えがぱっと思い浮かぶようになりますが、長期記憶が弱いと自動化ができないため答えをぱっと思い浮かべることができません。
小さな数の計算(暗算)が苦手な子への指導例
暗算ができるようになるための前段階として、具体物から半具体物(シンボル)への変換、半具体物から数への変換を行う必要があります。(🍎🍎🍎→●●●→3)
10までの小さい数は具体的な物に結びつきやすい(例:手の指で数えるなど)ですが、これでは”数”という抽象的なものを操作する段階に進めません。
そのため、数を頭の中で操作できるよう半具体物のイメージ作っておく必要があります。
半具体物のイメージを作るのに有効なのが、黒丸と白丸のドットのシールを貼った横長のカードを用意し、具体物とマッチングさせる取り組み。
以下のように丸シールを横一列に貼って作成します。(黒丸は具体物の数、白丸は10の補数をあらわす)
具体物を見せて、上記のカードのうち同じ数のものをマッチングさせる取り組みを行います。
数える対象のもの(具体物)を、動かせるばらばらのドットや積み木(半具体物)と対応させるだけではなく、固定された10の並びの中で対応させることが必要。
このようなドットの並びのイメージを頭の中で再生できるようにすることが大切になります。
「筆算をまちがえる」・・・計算の手続きが苦手な子
筆算では、以下の2つが必要になります。
・繰り上がり・繰り下がりの手続き(正しい手順にそって計算をすすめる)
・多数桁の数字の空間的な配置とその意味の理解(十進法位取りを理解し、正しい位置に数字を書く)
計算の手続きが苦手な子の例
☑簡単な計算はできるが、20以上の大きな数の筆算ができない
☑計算の順番がよくわからない
☑繰上りの数をどこに書いてどの数と足すのかわからない
☑繰り下がりの計算で、引く数と引かれる数を逆にしてしまう(引ける方から引いてしまう。例:22-7=25など)
計算の手続きが苦手で筆算を間違える原因
大きい数の計算(筆算)で、計算のためのいくつかの手続きを順番に正確に行うことが困難なために間違えてしまう原因として、以下のことが考えられます。
・継次処理能力が弱い(手順にそって作業をすすめられない)
継次処理能力とは、一つ一つの情報を時間的な順序で処理していく能力のこと。
この能力が弱いと、筆算の手続きが覚えられないために繰り上がりの数字を書き忘れたり足し忘れる等、間違えてしまいます。
またワーキングメモリの弱さから、頭の中に数を保持しながら筆算の手続きを行うことに問題がある場合も。
・同時処理能力が弱い(数字の位を揃えられない)
同時処理能力とは、複数の情報を、その関連性に着目して全体的に処理する能力のこと。
数字の位を揃えられないのは、同時処理能力に関連が高い視空間認知能力の問題となります。
数字の位置関係の把握が弱ければ、十進法位取り記数法で左隣に書かれた数字が10倍の大きさを持つことがうまく理解できない場合があります。
※関連記事:学習のつまずき解消のヒントをくれる!『「継次処理」と「同時処理」学び方の2つのタイプ』
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計算の手続きが苦手で筆算を間違える子への指導例
計算の手続きを正確に進められない場合は、手続き表を作成し、計算する時はそれに従って作業を確認しながら行うようにするのがおすすめ。
手続きの示し方は、子どもの得意な認知スタイル(継次処理スタイルか同時処理スタイルか)に合わせて以下のように作りましょう。
継次処理スタイルとは
・情報を一つ一つ順番に理解し、それらをつないで全体を捉えることが得意(部分→全体へ)
・聴覚からの情報収集・理解が得意
・学習するときには始めから順序だてて行うことを好む。
⇒継次処理スタイル優位の場合・・・言葉で詳しく計算操作を書く
例:かけ算の手続き表
①1の位の計算をする。
➁2つの数字のうち、下の数の1の位の数字は何?
③その数字に〇をつける。
④〇の数字から、上の数字2つに矢印をかく。
➄矢印にそって、上の1の位から計算する。
⑥10の位の計算をする。
⑦2つの数のうち、下の数の10の位の数字は何?
⑧その数字に□をつける。
⑨□の数字から上の数字2つに矢印をかく。
⑩矢印にそって、上の1の位の数字から計算する。
同時処理スタイルとは
・「全体から部分へ」という方向を踏まえる。
・物事の全体像をイメージし、情報と情報の関係を把握していくことが得意(全体→部分へ)
・視覚からの情報収集・理解が得意
⇒同時処理スタイル優位の場合・・・大まかなやり方を記号で簡略に示す
例:計算の順番を示すマーク
暗算は得意なのに筆算を間違える・・・空間の認知が苦手な子
空間の認知が苦手な子の例
☑・繰り上がりや繰り下がりの暗算はできるのに筆算を間違える
☑・数字を書く桁がズレてしまう
☑・筆算で百の位に合わせて十の位を書いてしまう
☑・計算用紙やノートがぐちゃぐちゃ
☑・もうすでに書いてある式に重ねて計算している
空間の認知が苦手で筆算を間違える原因
・空間認知能力や同時処理能力が弱い(視空間の関係を捉えるのが苦手)
筆算では、桁の大きい数字をノートに書いて1つ1つの計算手続きを行わなければなりません。
数字の並びは位置によって意味が異なるため、空間的な位置関係の混乱が起こると致命的なミスとなってしまいます。
空間の認知が苦手で筆算を間違える子への指導
同時処理能力が弱く視空間の関係を捉えるのが苦手な子どもは、マス目のノートを使うようにしましょう。
その際、マス目の大きさにも注意が必要。
子どもが普段書く数字の大きさを考慮し、マス目Ⅰつに数字Ⅰつが書けることを確認してマス目の大きさを選びます。
特に、文字の大きさが一定に書けない場合には、大きな数字に合わせてマス目を選びましょう。
またノートに書く際には、計算式をぎっしり詰めて書くと混乱してしまうため、上下左右にあるていど空間を空けて式を書くよう指導しましょう。
「文章題が苦手」・・・問題文のできごとがイメージできない
問題文のできごとがイメージできない子の例
☑・問題文に合った図や絵が描けない
☑・計算は得意なのに文章題になるとつまずく
☑・文章題の場面と数のイメージがつながらない
☑・立式に必要な数と不必要な数がわからない
問題文のできごとがイメージできなず文章題が苦手な原因
文章から場面をイメージ化する【統合過程】に困難がある
算数の文章題のように、数が入った課題解決場面で推論し、正しい答えを導くことを「数的推論」と言い、4つの過程に分けられます。
➁統合過程:問題文から場面をイメージ化(表象化)する。
③プランニング過程:問題の解き方を選択し、数式を立てる。
④実行過程:計算する。
算数の文章題を読んで内容をイメージできない子は、文章題を解く過程のうち➁の統合過程に困難があると考えられます。
国語と同じく言葉や文章の読解力も大きくかかわってきますが、算数の統合過程には数量の変化も合わせて視覚化(イメージ化)して理解することが求められます。
学年が上がって文章題の構造が複雑になったり、数が大きくなったりすることでより困難になっていきます。
問題文のできごとがイメージできなず文章題が苦手な子の指導例
文章で表されていることをイメージに変換することが苦手な子には、文章題を段階に分け、それぞれの段階で自分のイメージしやすい絵を描かせるのが有効。
1⃣文章題の場面を区切って絵に描かせる。
①割り当て文:1つの要素に1つの数値を割り当てた文
➁関係文:要素間の数量関係や数値の関係性を示す文
③質問文:質問する文
問題文
ちょうちょが6匹いました。3匹とんでいってしまいました。また、2匹とんできました。ちょうちょは何匹になったでしょう。
③質問文:ちょうちょは何匹になったでしょう。
(式)6-3+2=5
(答え)5ひき
2⃣自分で絵や図を描くことが難しい子どもには、複数のイラストを用意して、問題文に合った絵を選ばせる。
問題文
1はこ5枚入りのクッキーがあります。4はこ買うと、クッキーは全部で何枚になりますか。
問題文を分け、それぞれの文に対応する絵カードを選ばせる。
①割り当て文:1はこ5枚入りのクッキーがあります。
➁関係文:4はこ買うと、
③質問文:クッキーは全部で何枚になりますか。
(式)5×4=20
(答え)20枚
3⃣おはじきなどの半具体物を操作させ、場面をイメージできるようにする。
半具体物の操作が可能になれば、テープ図や線分図など、より抽象度を高めていく。
「文章題が苦手」・・・何算かわからない子
何算かわからない子の例
☑・何を求めるかわかっても式が立てられない
☑・文章題に出てくる数の関係のイメージがわかない
☑・数の変化と式が結びつかない
何算かわからず文章題が苦手な子の原因
算数の文章題のように、数が入った課題解決場面で推論し、正しい答えを導くことを「数的推論」と言い、4つの過程に分けられます。
➁統合過程:問題文から場面をイメージ化(表象化)する。
③プランニング過程:問題の解き方を選択し、数式を立てる。
④実行過程:計算する。
算数の文章題を読んで何算かわからない子は、文章題を解く過程のうち③のプランニング過程に困難があると考えられます。
プランニング過程とは、文章題で示された状況を整理し、どの数でどんな順序でどんな計算を行えばいいかを検討し決定する過程。
文章題を読んで場面をイメージし、また1つ1つの「増える」「減る」などの変化も理解してブロックを操作することはできます。
しかしながら、立式するためにはさらに問題場面全体の数量関係を捉えることが必要となります。
例:「はじめにりんごを何個かもっていました。よしこさんに6個あげたら残りは3個になりました。はじめに持っていたりんごは何個でしょう。」
上のような、始めの数が分からない問題では、時系列(起こったことの順番)に増やしたり減らしたりするのではダメで、部分と部分から全体を求めるなど逆方向からの思考が必要になりますが、このようなタイプの子は、逆方向での思考が必要な問題や割合の理解が困難になります。
何算かわからず文章題が苦手な子の指導例
上記の問題では、はじめに持っていたりんごの数がわからないため、ブロックなどの具体物を用いて考えさせようとしても、はじめに置くブロックの数がわからず思考の過程がむずかしくなります。
その場合は、□―6=3のように求めるべき数を□と置いて順方向で式を立てさせ、両辺に同じように6を足して、機械的に答えが導けるようにします。
このような操作は中学数学で習得する内容ですが、これをいちいち具体物や文章に戻って考えさせると、かえって混乱することが多くなってしまいます。
最後に
④文章題・・・さまざまな数の変化や操作を推論する
についてお伝えしました。
①数処理・・・数詞・数字・具体物の対応関係
➁数概念・・・序数性と基数性
※関連記事:数え間違い、数字の読み書き・・・算数でつまずく原因を『通常学級で役立つ算数障害の理解と指導法』から学ぶ
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