「国語が苦手」な原因と、読み書き学習の基礎となる11の能力とは。『特別支援教育をサポートする 読み書きにつまずく子への国語教材集』より

『特別支援教育をサポートする 読み書きにつまずく子への国語教材集』は、ことばの教室(言語障害通級指導教室)の現場で実際に使用された、「読む・書く・聞く・話す」などの能力を伸ばすための教材が収録されている本。

具体的には、

☑ひらがな・カタカナが覚えられない

☑促音(小さい「つ」)や拗音(小さい「やゆよ」)などの特殊音節が抜けたり、間違えたりする

☑作文が書けない

☑文章を単語のまとまりで読めない

☑書いた文字が乱雑になる

☑漢字を正しく覚えたり書いたりできない

・・・このような「読み書き」の課題を持つお子さんを支援するために、学習場面でそのまま使える教材409枚が収録されたCD-ROMが付属しています。

教材を印刷してすぐに使えるので、現場で指導している先生や、「読み書き」につまずいているお子さんをお持ちの保護者の方にはとても活用できる本となっています。

こちらの記事では、本書を参考に

  • 「読み書き」の課題の背景にはどんな原因があるのか?
  • 「読み書き」の支援にあたって気を付けることは?
  • 「読み書き」学習の基礎となる11の能力とは?

についてご紹介していきます。


CD-ROM付き 特別支援教育をサポートする 読み書きにつまずく子への国語教材集 (発達障害を考える 心をつなぐ)

「読み書き」につまずく原因とは?

読み書きの課題は、以下のようなことが原因で起こります。

①音韻認識の弱さ

言葉が音に分けられることの理解を「音韻認識」といいます。

例:「雨」ということばは「あ」と「め」の2つの音でできている

音の一拍の単位を「モーラ」といい、日本語の音の基礎になります。

定型発達の子どもの場合、以下のような発達段階を経て、モーラの気づきと操作が身につくと言われています。

モーラの気づきと操作の発達(定型発達の場合)

◇4歳後半頃まで

・モーラへの気づきができる 

※「みかん」は「み・か・ん」の3音でできている、とわかる

・単語の最初の音や最後の音がわかる 
※「みかん」・・・最初は「み」、最後は「ん」

◇5歳半頃まで

・単語の中から文字を取り出せる 

※みかんの「か」

・2モーラの逆唱ができる 

※あめ→めあ

◇6歳半頃から

・3モーラの逆唱ができる 

※みかん→んかみ

読み書きに課題がある子どもは、この発達段階を経ることができません。

定型発達の子どもは、5歳頃までにひらがなのおおよそ90%以上を読むことができるという研究結果がありますが、一方で、音韻認識や操作の力が弱い子どもたちは、文字への関心が起こりにくいようです。

➁ワーキングメモリの弱さ

ワーキングメモリとは、作業や課題を遂行中に、一時的に記憶を保持し処理する能力のことで、頭の中の小さな「メモ帳」に例えられます。

ワーキングメモリが学習に及ぼす影響は大きく、知能よりもむしろワーキングメモリのほうが影響が大きいことが知られています。

ワーキングメモリーを研究したバドリ―によると、ワーキングメモリーは以下の4つの要素からできていると考えられています。

ワーキングメモリーの概念

◇音韻ループ・・・聴覚的な処理

言葉や文章を理解したり推論したりするときに、音に関する情報を一時的に保つ役割

◇視空間スケッチパッド・・・視覚的な処理

視空間的なイメージを記憶したり、操作したりする役割

◇エピソードバッファー・・・情報を経験や知識と照らし合わせる

聴覚・視覚情報など複数の情報を統合的に保持して、長期記憶とワーキングメモリをつなぐ役割

◇中央実行系・・・注意をコントロールし、処理情報を配分する

他の3つのものを繋ぎ、コントロールする司令塔の役割

読み書きに課題がある子どもは、この処理能力のいずれかがスムーズに働かないのではないかと考えられています。

※なお、ワーキングメモリについてはこちらの記事でもご紹介しています>>>関連記事:ワ-キングメモリが弱い子どもの学習支援『ワーキングメモリと特別な支援』

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③音から文字への変換スピードの遅さ

文字(視覚的な情報)を音声に変換することで「読む」ことができます。

また逆に、音声を文字に変換することで「書く」ことができます。

文字を思い起こすことがうまくいかない子どもは、この領域に弱さがある場合が多いようです。

④視覚と運動協応の弱さ

文字を書くためには、目と手を協応させて動かす必要があります。

この部分に弱さがあると、目で見たとおりに書くことが難しかったり、鉛筆をうまく操作できなかったりします。

➄視空間認知の弱さ

視空間認知に弱さがあると、文字の形を正しく捉えることができません。

点の位置や線の方向、長さやバランスなどの見当が定まらないためです。

視空間認知の弱さの例

・形が似ていたり、細部のみが異なる文字の区別がつかない
(「ま」と「よ」、「め」と「ぬ」など)

・書いた文字が鏡文字になる

・書いた文字の形が整わなかったり、マス目におさまらない 

など

りんこ
このように「読み書き」の困難さにはさまざまな背景があるため、一人ひとりのつまずきに合った支援を見つけることが必要になります。

「読み書きが苦手だから、他の子の2倍・3倍練習させよう」と考えてしまいがちですが・・・

むやみに学習量を増やすことで、かえって「読み書き」を嫌いにさせてしまう可能性もあります。

子どものつまずきに合った支援の方法を見つけるためには、子どものどの能力を高める必要があるのかをつかむ(アセスメント)ことが大切になります。

りんこ
とはいえ、発達検査や知能検査をすべての子どもに行うのは無理。

本書に紹介されている教材には、それぞれ学習をとおして身につけたい「ねらい」が設定されており、教材に取り組んでいる様子から、子どもの得意・不得意を見つけていくことも可能となっています。

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「読み書き」の支援を進める上での注意点

①子どもの特性をつかむ

子どもの読み書き支援を行う場合には、さまざまな検査の結果や日頃の行動の観察、ことばのやりとり等によって、子どもの特性をつかんでおくことが大事。

それにより、子どもの苦手な分野=「支援すべき課題」を知っておくことはもちろん、「子どもの得意分野」も知っておくことが必要になります。

例えば、情報の認知の仕方には「継次処理」スタイルと「同時処理」スタイルの2つのパターンがあります。

聴覚的な記憶力に課題があるが、視覚からの情報処理が得意な「同時処理」タイプの子どもには、絵などの視覚的な手がかりを使った、全体をとらえやすい支援が有効になります。

※なお、「継次処理」と「同時処理」の2つの認知処理スタイルについては、こちらの記事でご紹介しています。>>>関連記事:学習のつまずき解消のヒントをくれる!『「継次処理」と「同時処理」学び方の2つのタイプ』

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➁「聞く」「話す」能力が重要

「読む」「書く」ためには「聞く」「話す」力が十分育っていることが前提。

つまり「読み書き」の支援は、「聞く」「話す」を含めた言語発達の支援でもあります。

そのため学習の際には、人の意見を聞くことで新たな知識を得たり、自分の考えや思いを話す機会が作れるような教材を使い、学習に「聞く」「話す」場面を取り入れることが大切になります。

③子どもに合わせて教材を選ぶ

内容の半分以上がわからないようであれば、その教材は子どもに合わないと考えられます。

その場合は、難易度を下げるなどして教材を選びなおしましょう。

「わからない」ということは子どもにとってかなりの負担となり、学習への意欲も低下してしまいます。

④達成感を得られるようにする。

学習支援の際には、できるかぎり子どもから答えが出てくるようにすることが大事。

子どもが悩んだり、答えを思い起こせなかった場合、すぐに答えを教えてしまうのではなく、ヒントを与えて、最終的には子どもが自分で答えられるようにしましょう。

子ども自身が「自分で答えを出すことができた」という達成感を得られることが大切です。

子どもが答えにたどり着けたときは、肯定的なフィードバックを与える(言動を褒める、どこを改善すればもっとよくなるか等を伝える)ようにしましょう。

効果的なフィードバックの例

・ことばでのフィードバック

できるだけ具体的に、結果だけでなくプロセスもほめる

例:「自分で間違いに気づけたね」「最後まで続けられたね」

・行動やものでのフィードバック

例:拍手をする、頭をなでる、シールやスタンプを与える

➄手がかりを与えて負担を軽減する

子どもによっては、手がかりを多く与えて「読み書き」の負担を軽減させることが必要な場合があります。

手がかりの与え方には、以下のような例があります。

「読み書き」手がかりの与え方

・答えの要点を口頭で伝えたり、はじめの文字を教えたりする

・五十音表で答えの文字が入る行を示し、順番に言うことで導く

・絵や図を用いて、視覚的な手がかりを与える。

・黒板に答えの文字数の〇を書き、はじめの文字だけを書き入れておいたり、知りたい文字の場所にあたる〇を選ばせたりして教える

など

⑥学習の成果を焦らない

読み書きに問題がある子どもの場合、覚えるために定型発達の子の何倍もの時間が必要になることも。

「読み書き」は、その子が生涯にわたって取り組んでいく課題なので、すぐに成果を出そうと焦らず「まいた種はいつか必ず花が咲く」という気持ちで支援することが大切になります。

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「読み書き」支援の効果的な進め方

りんこ
「読み書き」支援の効果的な進め方は以下のとおり。

①子どもに見通しを持たせる

学習を始める前に、その日に取り組んでもらいたい教材を見せることで、子どもはこれから何をするのかがわかり、その時間について見通しを持つことができます。

例:教材を机の上にすべて置く、取り組む教材の名前を黒板に書く等

➁子どもに取り組む教材を決めさせる

支援者が子どもの特性を考慮して取り組む教材の内容や順番を決めてもよいですが、ときには子ども自身に決めさせることで、子どもが「この順番で教材をやり終える」ということを、ごく自然に目標にすることができます。

③ことばのやりとりを活発に

ただ淡々と教材に取り組ませるのではなく、ことばのやりとりを活発に行うことも大切。

先に述べたように「読む」「書く」ためには「聞く」「話す」力が十分育っていることが前提であり、「読み書き」の支援は、「聞く」「話す」を含めた言語発達の支援でもあります。

また教材に取り組む過程でのやりとりの楽しさが、学習することの楽しさにもつながります。

④学習の成果は見えるようにする。

学習の成果を目に見える形で示すことで達成感を得ることができ、次の学習へのモチベーションにもつながります。

例:

やり終えたプリントはファイルに綴じる

取り組んだ枚数の分だけシールを貼る

など

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「読み書き」の学習で身につけたい11の能力

本書に収録されている教材は、学習の基礎となる11の能力を身に着けることを目的としています。

「読み書き」学習の基礎となる11の能力

①音韻操作(音韻認識)
②語彙
③促音
④文章の読解
⑤物事の説明
⑥時間関係
⑦適切な言動
⑧感情表現・理解
⑨漢字の読み
⑩漢字の書き
⑪作文

りんこ
以下で、11の能力について述べていきます。

①音韻操作(音韻認識)

音韻操作とは、言葉がどのような音のかたまりに分かれるかを認識し操作すること。
読み書きの定着にはこの能力が必要になります。

例:

「つくえ」ということばが「つ・く・え」の3つの音からできていることがわかる。

「つくえ」の語頭音は「つ」、語中音は「く」、語尾音は「え」であることがわかる。

「つくえ」を「えくつ」と逆から言うことができる。

就学前までに3文字の単語の音の認識と操作が身につき、「読み書き」の基礎が完成すると言われています。

読み書きにつまずいている子どもの場合、この能力が身についているかを確かめる必要があります。

※なお、本書に掲載されている、音韻操作(音韻認識)の力を伸ばす教材と取り組み方については、こちらの記事でご紹介しています>>>関連記事:音韻操作と語彙力を鍛えて「読み書き」能力を伸ばす方法。『特別支援教育をサポートする 読み書きにつまずく子への国語教材集』より

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➁語彙

語彙とは、知っていることばの数のこと。
文字を読んだり書いたりするためには、年齢にともなった語彙の獲得が必要となります。

「読み書き」の支援で大切なのは、ただ「読める」「書ける」ことを狙いとするのではなく「語彙を獲得していく」ための学習にすること。

語彙には内言語と外言語があり、内言語とは、発声をともなわず自分の頭の中だけで使うことば。

話すことは上手ではないが人の話は理解できる、という場合は、内言語の語彙がおおよそ獲得されている状態といえます。

そうなれば、次の段階では適切にその語彙(内言語)を思い起こし、他者へ向けて発声(外言語)できるようになることが大切。

※なお、本書に掲載されている、語彙力を鍛える教材と取り組み方については、こちらの記事でご紹介しています>>>関連記事:音韻操作と語彙力を鍛えて「読み書き」能力を伸ばす方法。『特別支援教育をサポートする 読み書きにつまずく子への国語教材集』より

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③促音(そくおん)

「促音」とは、つまる音(ちいさい「つ」)のこと。

読み書きでつまずいている子の場合、促音を含めた特殊音節が、音として認識されにくいようすがみられます。

特殊音節には以下のようなものがあり、正しく読んだり書いたりできるようにすることが必要になります。

特殊音節

・促音(そくおん):小さい「つ」がつく、つまる音 例:きって

・拗音(ようおん):小さい「や・ゆ・よ」がつく、ねじれる音 例:きしゃ

・長音(ちょうおん):伸ばす音 例:おとうさん、とけい

・撥音(はつおん):はねる音(「ん」) 例:きんか

④文章の読解

音読・黙読した文字は、頭の中で音に変換することで読むことができます。

この「文字を音にする」作業につまずきがあると、読むことだけで精一杯になってしまい、内容までを読み取ることができません。

短い問題文やクロスワードパズルに取り組むことで、問われていることを読み取る力をつけていきます。

➄物事の説明

周囲とコミュニケーションをとるためには、物事を相手に適切に伝えることが必要。

しかし読み書きにつまずく子は、物事を正しく把握したり、それを言葉で説明したりすることがむずかしい傾向があります。

学習をとおして、ものの特徴や属性、共通点や相違点を考え、知識として増やしていくことが必要になります。

⑥時間関係

時間の流れの概念が身についてなかったり、物事の順序が理解できていなかったりする子は「思いついたことをそのまま話す」「いつの話をしているのかわかりにくい」などのようすがみられることがあります。

物事の因果関係を理解するために、日付や曜日などを理解し、時間の流れの概念を身につける必要があります。

⑦適切な言動

語彙が少なかったり、状況を把握する力が弱い子の中には、社会で求められる言動ができていない子もいます。

身近な学校生活で起こりうる場面についての質問に答えたり、その質問についての他人の意見を聞き入れたりする学習をとおして、場面に応じた適切な言動を学ぶ必要があります。

⑧感情表現・理解

周囲とコミュニケーションをとるためには気持ちの適切な表現や理解が重要。
そのためには、感情を表現する「ことば」や「表情」を知ることが必要になります。

学習をとおして、場面に合わせて適切に自分の気持ちを表現したり、人の表情から感情を理解する力をつけていきます。

⑨漢字の読み

読み書きにつまずく子の中には漢字の読みの習得がむずかしい子がいます。

漢字を文脈や知っている場面と合わせて思い起こしながら、意味を連想させ、繰り返し読むことで定着させていくことができます。

⑩漢字の書き

漢字に対するつまずきの背景は子どもによってさまざまですが、漢字の形を認識することが難しい子どもには、漢字の「構成」に着目させながら漢字を書く練習が効果的です。

⑪作文

作文は、自分の経験したことを人に伝えるために適切な思い起こす言葉を必要があり、話す時よりも正確に文法を使わなくてはならず難しい学習のひとつ。

指導者と子どもが話し合いながら、時間の順序や物事の因果関係を考えてことばを思い起こす練習をし、作文に必要な力を身につけていきます。

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まとめ

「読み書き」につまずく原因とは?

①音韻認識の弱さ

➁ワーキングメモリの弱さ

③音から文字への変換スピードの遅さ

④視覚と運動協応の弱さ

➄視空間認知の弱さ

「読み書き」の支援を進める上で気をつけること

①子どもの特性をつかむ

➁「聞く」「話す」能力が重要

③子どもに合わせて教材を選ぶ

④達成感を得られるようにする

➄手がかりを与えて負担を軽減する

⑥学習の成果を焦らない

「読み書き」支援の効果的な進め方

①子どもに見通しを持たせる

➁子どもに取り組む教材を決めさせる

③ことばのやりとりを活発に

④学習の成果は見えるようにする

「読み書き」の学習で身につけたい11の能力

①音韻操作(音韻認識)

➁語彙

③促音(そくおん)

④文章の読解

➄物事の説明

⑥時間関係

⑦適切な言動

⑧感情表現・理解

⑨漢字の読み

⑩漢字の書き

⑪作文

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